翻訳事務所に必要な許認可
翻訳・通訳サービス
翻訳事務所の開業に許認可はほぼ不要
翻訳事務所は、開業にあたって行政の営業許可や免許を必要としない業種です。翻訳・通訳の提供そのものを規制する業法はなく、特定の国家資格がなければ開業できないということもありません。在宅・小規模で始められ、設備投資もPC・辞書ソフト・翻訳支援ツール程度で済むため、初期コストの大半は許認可ではなく営業基盤づくりに向くと考えてください。
そのうえで、開業手続きとして必ず行うのが税務上の届出です。
必ず出す届出 — 個人事業の開業届
個人で始める場合、開業日から1か月以内に税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。これは許可申請ではなく、事業を始めた事実を知らせる届出で、提出自体に費用はかかりません。
同時に出しておきたいのが「所得税の青色申告承認申請書」です。原則として開業から2か月以内(その年から青色を使う場合)に提出すると、最大65万円の青色申告特別控除や赤字の繰越しが使えます。翻訳業は売上が個人の報酬に直結し経費が比較的少ない業種なので、控除の有無は手取りに大きく響きます。開業届と青色申告申請はセットで同時提出するのが定石です。
法人にする場合 — 法人設立登記
取引先が法人中心で、継続契約や守秘性の高い案件(契約書・特許・IR・医療文書など)を受けたい場合は、法人化を検討します。発注側の与信・コンプライアンス上、個人より法人と契約したいというニーズが翻訳業では明確にあるためです。
法人化には法務局での法人設立登記が必要です。費用の目安は、株式会社で登録免許税15万円前後+定款認証約5万円+実費で、合計25万円ほど。合同会社なら登録免許税6万円+実費で10万円前後に抑えられます。設立後は税務署・都道府県・市区町村への法人設立届、社会保険の加入手続きが続きます。法人設立登記は「事業が軌道に乗ってから」でも遅くなく、最初は個人開業届で始め、売上と取引先の要望を見て切り替える順序が現実的です。
通訳案内(インバウンド向け)を兼ねるなら確認
純粋な文書翻訳には資格は不要ですが、報酬を得て外国人観光客に付き添い外国語で案内する「通訳案内」を事業に含めるなら、全国通訳案内士の扱いを確認してください。2018年の法改正で業務独占は撤廃され、無資格でも有償ガイドは可能になりましたが、「全国通訳案内士」という名称は資格者しか名乗れません(名称独占)。翻訳と観光通訳を一体で売る場合に関係するため、該当する人だけ留意すれば足ります。
見落としやすい手続き
- インボイス(適格請求書発行事業者)登録:取引先が法人・課税事業者中心だと、適格請求書を求められる場面が多くなります。登録は任意ですが、登録しないと取引先側が仕入税額控除を取れず受注に影響することがあります。BtoB比率が高い翻訳業では開業初期に検討すべき論点です。
- 秘密保持契約(NDA)の整備:許認可ではありませんが、翻訳は他社の未公開情報を扱うため、受注時にNDAを求められるのが通例です。雛形を用意しておくと初回取引がスムーズです。
- 翻訳証明・公証:戸籍や証明書の翻訳で「翻訳証明書」を求められる案件があります。さらに公的提出用に公証役場での認証が必要なケースもありますが、これは案件ごとの対応で、開業時の許認可ではありません。
開業スケジュールの目安
1. 事業形態(個人か法人か)と専門分野を決める 2. 個人なら開業届+青色申告申請を提出(法人なら設立登記を先に行う) 3. インボイス登録の要否を取引先想定から判断 4. NDA雛形・料金表・取扱分野を整え、受注体制を作る
つまずきやすいのは、許認可が不要であるがゆえに税務の届出や青色申告申請を後回しにし、控除や記帳の準備が遅れる点です。許可を待つ必要がない業種だからこそ、開業届・青色・インボイスの3点を開業初月に片付けておくと、後の確定申告で困りません。